今は昔、わたしが派遣社員として勤めていたころ。
わたしと同じ部署で働いていた十数名の派遣、その全員が正社員になりたいと願っていた。
しかし全員分の正社員の枠はなく、派遣たちも色々思うことがあったのだろう。
時折ある募集時にだれも「なりたい」と手をあげる者はなく数年が過ぎた。
数名は「他の会社で正社員になりました!」と辞めていった。
もしかしたら、わたしはそこでも社員募集があったことを知っていたが、他の方々は知らなかったのかもしれない。
ただわたしは確かにそのときだれも口には出さないまでも「抜け駆けするなよ」という圧力のようなものを感じていた。
そしてまた月日はすぎ、派遣は入れ替わり立ち代わり。
十数名の派遣の中では入った順で真ん中程度になった女性が、あるとき公募にて手を挙げて、そして派遣から社員になった。
それはそれは荒れた。
表面上は何も変わらなかったが、派遣たちの内心は荒れていた。
派遣A・B・Cがその人の悪口を言っていたとだれかを経由して聞いたし、派遣E・F・Gから

わたしが正社員になりたいって相談を彼女にしていたのに抜け駆けされた!

あの人の仕事って別にいらなくない?

あの人、最初っからそういうつもりだったの見え見えだったよね
媚び売っててさ
と聞かされるなどした。
わたしは派遣から社員になった子に食事に誘われて

他になりたい方がいれば全然どうぞどうぞって感じだったんですが、まわりを見渡してだれもいなそうだったので…
と経緯を聞かされるなどした。
今思えば、わたし経由で他の派遣を鎮めてほしいという気持ちがあっての説明だったのかもしれない。
いやいや、としたら相手間違えてるよ。調整役などできるわたしではない。
そして彼女は社員になって数ヶ月後に産休・育休のためお休みに入った。
彼女にあって他の派遣さんになかったものは嫌われる勇気だとわたしは思う。
この状況で、派遣から自分一人が社員になったら他の人の反感を買うことは目に見えていた。
だから大勢が踏みとどまった。
彼女はまわりの目より自分の生活を選んだ。
案の定、彼女は他の派遣から陰口をたたかれたけれど、陰口と引き換えに彼女は生活の安定を得たわけで。
みんな選んだものが手に入った。
さて、他人事のようにここまで書いてきた自分はというと、実際わたしには他人事だった。
「収入の安定」「社会的信用性」はもちろんメリットだけれど、それ以上にデメリットを感じていたからだ。
他の派遣からのやっかみ
副業禁止
わたし自身が自分にかける「ちゃんとしなきゃ」の呪い
特に一番下の三つ目が厄介なのをわたしは知っている。
「他の人を差し置いて社員になったからには他の人を圧倒するほどシゴデキにならなくては」
とか
「今の柔軟な働き方や、急なおやすみなどもっての他!」
とか
「社員になって〇年もしないうちに(産休・育休・介護休暇・傷病休暇・etc.)なんて会社に迷惑だ!」
とか
派遣から社員になった彼女にはそんなことは思わないのに、自分がそのポジションに入ったらそうやって自分を苦しめる未来が見えていた。
同僚たちはわたしの、メリット−デメリットの計算式を知らない。
副業のことも秘密にしていたし、計算式どころか、何も知らない。
だから、

あの人じゃなくてwataさんがなればよかったのに
などと声を掛けられる役得のポジションを得てしまった。
実際にわたしがなっていたら同じように色々言ったことでしょうに。笑
でも、社員になりたかったなら、その職場で働く数名程度に嫌われるくらい許容しなきゃ
それよりずっと大きなものを得られるんだし、派遣は入れ替わるし、つらければ自分も異動希望を出せるようになるんだし
人にどう思われるかよりも自分はどうしたいか、どうなりたいかを軸にしないとね!

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